あの日、多くの人が初めてのことを体験したと思います。

初めての巨大地震、初めての帰宅難民、初めての会社に一泊、そして初めて屋根のある家で生活できることを幸せだと思えたり。

僕は、生まれて初めて地震で机の下に隠れました。
そして、生まれて初めての会社からの徒歩での帰宅。

地震後に当分電車が動かないと踏んだ僕は、明るいうちに出ないと心が折れるということで、16時半に会社を出てとりあえず駅まで歩くことにしました。

駅では電車が動き出すのを待つ人たちでいっぱいでした。
ここで自分も待つか悩みどころですが、「迷わず行けよ、行けばわかるさ」の猪木イズムで線路沿いを歩いてみることに。

歩き出して1時間半近く経過して、やっと急行で一個目の駅に着きました。

もういい加減タクシーを捕まえられるかなとも思ったのですが、客を乗せていないタクシーは何故か「回送中」。

住宅地で一台「空車」のランプを着けているタクシーを見つけたけど、プリントアウトした地図を片手に歩いている僕を見たら、「空車」のランプを消しよった!

誰がおまえのタクシーなんか乗るか!
ばーかばーか。
意地でも歩いて帰ってやる。

こんなに必死で帰るのも、共働きのために娘を施設に預けていたからです。

夜7時までのお迎えにしていたため、娘には施設で夜飯が出ない。
僕自身は途中でお腹が空いてファミレスに入ろうとも思ったのですが、娘も腹を空かせて待っているかもしれないので、俺も空腹でがんばる!ということでチョコをかじりながら歩き続けることに。

でももう足が辛い!
すぐに心が折れて目に入ったガストへ。

しかし、このタイミングで改装中!

もーいい。
歩く!
ひたすら歩く。

街の中では僕と同じように多くの人が歩いていたのですが、川沿いを歩いていると、灯りもなくなり、歩く人もまばらになりました。

途中「ホームレスの家が温かそうに見えます」とツイッターで呟きながらただ歩く。

娘も親が迎えに来るのか心配しているに違いない。
迎えに来た僕を見た娘が、「パパー」と涙ながらに抱きつくことを想像しながらただ歩く。
勝手な妄想に勝手にほろりとしながらただ歩く。

しかし、普段運動していない分、痛い。
股関節が痛い。
膝が痛い。

その時改めて思いました。
24時間テレビで武道館まで走ったはるな愛は偉い。
おまえは男の中の男だ。

途中にバスも見かけるのですが、進まない渋滞の中で乗客を降ろしています。

一人の中学生ぐらいの少女が、暗い道を不安そうにきょろきょろしながら歩いていたのですが、バスから降りた乗客の中に小学生の一人の少女を見つけると、名前を呼んで駆け寄りました。

名前を呼ばれた小学生の女の子は、「お姉ちゃん!」と言って泣きながらその少女に抱きつきました。
帰って来ない妹をお姉ちゃんが心配して探していたんだと思います。

今こういう光景が何万もあるのだと思いました。
携帯も繋がらない今、みんなが大切な人を心配しているはず。

僕も娘のために歩きました。
ただひたすら、川を北上しました。
そして3時間半掛けて娘を預けている施設へ。

「娘よ!」

抱き着こうと思ったら、施設の人が「もう奥さんが連れて帰りましたよ」。

娘よ…。

それからさらに30分掛けて歩いて帰宅。
這いつくばるように家に入る俺。

僕を見るなり娘は、DSを片手に走って来て一言。

「パパ、凄いよ!ビリジオンを捕まえたよ!」

ビリジオンとはポケモンのモンスター。

「すごいね…」と苦笑しながらも「俺も少しは凄くね?」と思うのでした。

その後、ビリジオンをどうやって捕まえたかを聞かされるのでした…。


 
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