先日「マリッジブルーの猫」という以前書いた物語の話をしましたが、
「マリッジといえば、こういうこともあったなあ」という記憶が蘇ったので綴ります。

僕は神聖な場所で、あってはならないことをしたのでした。


タイガースの応援席でジャイアンツのユニフォームを着て一人で観戦しているだとか、
イメクラのつもりがただのコスプレパーティーだったとか、
ばつの悪いことはよくあることですが、呼ばれていないおめでたい席に参加してしまうってのも周りの「何、おまえ?」という無言の視線を感じ、居心地の悪さったらこの上ありません。


僕がのりおという15年来の友人の結婚式に行った時の話です。

確かに僕は、のりおから招待状をもらっていました。

式が始まる30分前の1時50分には、目黒の焼肉屋の名前に似た超有名結婚式場にいました。


でもさすがにその焼肉屋に似た名前の結婚式場は広すぎた。
控え室がわからない。

控え室を探していたら、もう2時を過ぎていました。

係の人に控え室の場所を聞くと、
「間もなく始まるので直接5階へ向かってださい」と言われ、急いで5階へ。


5階に上がると式に参加する両家の親族らしき人達が、ぞろぞろとチャペルに向かって歩いていました。

僕は、さっきからいたかのような顔で、その最後尾を付いていきます。


入り口で「キリスト教結婚式次第」という式の進行表をもらって、チャペルの中に入りました。

しかし、友人の式に間に合いほっとしていたのは、束の間のことでした。


気になったのが、新郎のりおの友人と思われる世代の男性が1人しかいません。

それよりも一番不思議だったのが、僕の知り合いが一人もいないことです。


一抹の不安を感じてはいたのですが、「間もなく新郎が入場します」と係の人から告げられ、重そうなチャペルの扉が閉められました。

そして奏楽。

鳴り響くパイプオルガンの音。

そして再びチャペルの扉が開かれ、白いタキシードを着た新郎が一人でバージンロードを歩いてきました。

…って、誰だよ、この新郎!


見たこともない新郎が入場してきました!

のりおじゃないじゃん!


まさかもう一つチャペルがあったのか!?

しかし!

今扉を開けて戻っていったら、新婦入場の前に知らない男がバージンロードを遡上することになる!

もう出られない!!


そして新婦が父親と腕を組み入場。

おまえも誰だよ!

つうか、俺がこの参列者の中で誰だよ!


式次第を見ると15個ぐらい演目というかプログラムがある。

まだ2つ目!

くらくらしてきました。


そして、続きましては、「賛美歌」。

もー歌わざるを得ません。

みんなと一緒に席を立ちます。

「賛美歌312番」を歌います。

つうか何番まであんだよ、賛美歌!

「ロード」より多いよ。

こっちは虎舞竜発生中だよ。

なんでもないようなことが幸せだったと思える今だよ。

そして、なんでここで賛美歌なんか歌ってんだよ、俺。


ここからが苦痛だった。

ずっと僕は、他人が入り混じっていることを気付かれないように式のプログラムを俯き加減に見ています。

隣で知らないおばさんが涙を拭いていて、まるで僕も泣いているよう。


式では、カメラマンが写真をぱしゃぱしゃ撮っていました。

僕も撮られます。

絶対後で写真見ながら言われるに違いない。


新郎「この男の人、誰?」

新婦「え?あなたのお友達じゃないの?」

新郎「おまえの友人だろ!?」

新婦「私知らないわ」

新郎「嘘付くなよ!俺も知らないよ!」

新婦「ほんとよ!知らないわよ!」


もー僕のせいで新婚早々の二人が喧嘩になってしまう!


指輪の交換でも、終始ずっとカメラに映らないように下を向いている僕。

早くおまえら、チュウしちゃえよ。

こっちは早く式を終わらせてもらいたい。

しかし、せめてチラ見程度はしなければいけないのでは。

俯いていたら悲しんでいるように思われます。


そんなことを考えていると、誓いのキスになりました。

「僕はあえて君を奪った男を見ようではないか。
この瞳の奥に君たちを焼き付けよう。
いっそ涙目で見よう。」

そんな気分で二人を見つめました。


そして、チュウが終わったかと思いきや、次は誓約書も書き始める二人。

それ関係は役所で書いて!

まだカメラマンがぱしゃぱしゃしてる。

顔を伏せる僕。

でも悲しんではいけない。

顔を上げる僕。

カメラマンがレンズを向ける。

顔を伏せる僕。


カメラマンとそんな攻防を繰り広げていると、やっと二人は誓約書を書き終えました。

そして、ついに待ち望んでいた新郎新婦退場の流れに。


この閉ざされた空間から脱出できる日が、やっと僕に訪れました。

これで、すべてが終わった。

そして、これから新しい一日がまた始まるのだ。


僕は、参列者と一緒に拍手で送りました。

初めて会ったけど幸せになるのだぞ。

もう会うことはないだろうけど。


そして、おめでとう、俺。

ようやく、誰よりも開くことを望んでいたそのチャペルの扉が開かれるのでした。


長かった…。

僕はやっと社場の空気を吸えるのですね。


チャペルの外ではライスシャワーやブーケトスがあるのですが、いくら僕でもそこまではしない。

「おまえたち、結婚はゴールではなくスタートだぞ!」

そう心の中で叫び、走り去って行くのでした。

その後ろ姿は、きっと新婦を取られた悲しい男に映ったはずです。


その後ののりお夫婦の披露宴では彼らから、「式に来てくれませんでしたね」と言われましたが、
いや、しっかり式には出たから。

むしろがんばった方だから。